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2018年 第71回カンヌ国際映画祭でパルムドール賞(最高賞)を受賞した「万引き家族」。「誰もしらない」「そして父になる」「三度目の殺人」「海街diary」など数々を送り出した是枝裕和監督の作品。
6月8日(金)に劇場公開となり、とても気になっていたので見に行ってきましたので、感想なぞ…。(とてもじゃないけどレビューとは言えませんが)
はっきりとしたネタバレについては本記事では取り上げていません。ぜひ、劇場でご覧くださいませ。
社会の片隅で見えないことになっている人々に光をあてる
この映画は、だれか1人が主人公というわけではなく、細い細い糸で繋がった「家族」の物語です。
生計を立てるため、家族ぐるみで万引きなどを重ねていくうちに、一層強く結ばれる一家。だがそれは、社会では許されない絆だった。
世間が捉える普通に当てはまらなかった家族。全編を通して、センセーショナルなニュースにはなっても、細かくは追求されないし、すぐに忘れ去られるであろう人々の暮らしを描いています。
「犯罪」で生きているという映画の始まり。犯罪は犯してはいけないと教えられてきた、そして、そのルールをひたすら守ってきた、映画を見ている多くの人にとっては「おかしな」家族なのです。この家族にとって、万引きは家族の暮らしを支える「あたりまえの収入源」です。そして、あたり前を見ている子どもたちにとっても、物があるところから奪うことは「悪いこと」であるとの確信が持てません。たとえ、人目を盗んで奪わなければならないとしても。
さらに、家族のひとりひとりが闇を抱えています。そうでもしないと…そうするしか救われない…。今の日本の社会の片隅で実際に起っていることであるのに、見えない人には、たぶん一生見えない影。虐待、家庭内暴力(DV)、高齢者の孤独、若年者の孤独、低所得層、非正規雇用、戸籍のない子ども、学校に行けない子ども…
これだけ複雑な闇を抱えているのに、この家族は全員が揃うと、そんなものが一瞬見えなくなる。糸がほころび始めているのに、笑いや体温を感じられる幸福。この家族の営む幸福には、刹那的という日本語がぴったりかもしれないと、自分が書く文章で初めて「刹那」という言葉を使いました。
ほころびが回収されていく見事さ
布に1ヶ所、2ヶ所とほころびが出始めると、少しずつ少しずつ穴が大きくなり、あるとき、大きく繋がって取り返しのつかないことになる。
この映画もそう。
細やかな人物描写と俳優陣の繊細な表現が、次々と回収されていくのが見事だなぁと感じました。その過程で、映画序盤には幼かった子どもたちの目が変わっていくのも素晴らしかった。「誰も知らない」での柳楽優弥くんも終盤に見せる表情の変化に「おおっ」となりましたが、この映画での子役2人もすごかったなぁ。子どもの生命力みたいなものを信じたいと思わせられる。
さいごに
視聴後の感想としては、決してスッキリと何かの答えがでる映画ではありません。これは間違いない。
「本当の家族だったら、そんなことはない」「産まないと母親にはなれない」とは、物語の後半に登場するセリフ(ネタバレ、うろ覚えですみません…)ですが、「ん?」と思わざるを得ないシーンでした。
家族とは、血の繋がりとはどういうものなのか、私達は人に優劣をつけて良いのだろうか。私達が「あたりまえ」と思っている事柄やルールは本当に0か1で、はっきりと分けられるものなのだろうか。
改めて考えさせられる作品でございました。
ちなみに、音楽は細野晴臣です。全然知らなくてビックリした。
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